The Modelとは?営業を効率化する分業型プロセスをわかりやすく解説

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企業の営業活動は今、大きな転換期を迎えています。従来の「一人の営業がすべてを担う」スタイルでは、複雑化する顧客ニーズや長期化する購買プロセスに対応しきれず、成果の最大化が難しくなっています。そうした背景の中で注目を集めているのが、「The Model(ザ・モデル)」という営業プロセスモデルの考え方です。
The Modelは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4部門を分業化し、顧客接点ごとに最適な対応を行うことで、組織として一貫した営業活動を可能にするモデルです。この記事では、The Modelの基本構造から各部門の役割、KPI設計、導入の課題までをわかりやすく解説し、BtoBビジネスにおける営業組織改革のヒントをお届けします。
1. The Model(ザ・モデル)とは
The Model(ザ・モデル)とは、マーケティングから営業、カスタマーサクセスに至るまでの一連のプロセスを分業化し、部門横断で顧客の成功を支援する営業プロセスモデルを指します。もともとは米国のSaaS企業を中心に広まり、日本国内でも多くのBtoB企業が導入を進めています。
このモデルの本質は、営業の属人化を排し、各フェーズにおける最適な対応を組織的に実現する点にあります。マーケティングがリードを創出し、インサイドセールスが育成、フィールドセールスが受注を担い、カスタマーサクセスが継続利用を支援する。こうした流れが連携することで、営業活動全体の効率化と成果の最大化が期待できます。
また、The Modelは顧客の購買行動が複雑化・長期化する中で、情報提供の精度とタイミングを重視したプロセス設計が求められる現代において、極めて合理的な考え方とされています。単なる分業ではなく、「共業」すなわち部門間のシームレスな連携を前提に、顧客に一貫した価値を提供する仕組みとして機能する点が、The Modelの強みです。
2. 分業体制
The Modelにおける最大の特徴のひとつが、営業プロセスの「分業体制」です。従来、日本の営業組織では、ひとりの営業担当者がリード獲得から契約、アフターフォローまでを一貫して行う「一気通貫型」のスタイルが一般的でした。しかし、顧客の購買行動が複雑化し、提供価値が多様化する現代において、このスタイルでは対応が難しくなりつつあります。
分業体制では、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4部門が、それぞれの専門性を活かして業務を遂行します。各フェーズのKPIを明確にし、情報や成果物を次の部門に引き継ぐことで、プロセス全体の可視化と最適化を図ります。
この体制は、単なる役割の切り分けにとどまらず、各部門が共通のゴールを意識しながら連携する「共業」の文化を醸成する土台でもあります。個人のスキルや経験に依存するのではなく、組織として再現性のある営業活動を構築できる点が、分業体制の大きな価値です。
3. マーケティングの役割
The Modelにおけるマーケティングの役割は、単なるリード創出にとどまらず、顧客の認知から関心、検討、行動に至る一連のカスタマージャーニーを設計・推進し、次のプロセスへとスムーズに引き渡すことにあります。特に、購買の意思決定の多くが営業接点の前に完了する今、マーケティングは“入口”ではなく“設計者”かつ“ドライバー”としての役割を強く担うようになっています。
デジタル広告、オウンドメディア、ウェビナーなどを活用して潜在層への接触機会を創出し、ナーチャリングによってリードを成熟化させることが求められます。その過程では、MA(マーケティングオートメーション)などのテクノロジーを活用し、行動データをもとにスコアリングやシナリオ設計を行うことが一般的です。
マーケティングは“成果に近いプロセス”に立ち位置を移しつつあり、KPI設計や部門間連携においても高い戦略性が求められています。
4. インサイドセールスの役割
インサイドセールスは、マーケティングから受け取ったリードの中から、商談につながる有望な見込み顧客(ホットリード)を選別し、育成・接触を行う役割を担います。メールや電話などの非対面手法を用いて顧客の関心度やニーズを把握し、フィールドセールスに引き継ぐまでの橋渡し役を果たします。
The Modelの運用においては、インサイドセールスのスコアリングや対応履歴が、案件の質と量を左右する重要な変数となります。MAツールとの連携により、行動履歴や興味関心を可視化し、アプローチの優先順位を判断する仕組みも浸透しています。
また、フィールドセールスとの連携が密であればあるほど、より精度の高いパスが可能となり、営業全体の効率化にも直結します。近年ではABM(アカウントベースドマーケティング)と連動した「アカウント型インサイドセールス」など、顧客特性に合わせた進化も見られています。
5. フィールドセールスの役割
フィールドセールス(外勤営業)は、実際の商談から契約締結までを担当する営業プロセスの中核です。The Modelでは、インサイドセールスから引き継いだホットリードに対し、訪問やオンラインミーティングを通じて具体的な課題をヒアリングし、自社サービスによる解決策を提案していきます。
この段階では、提案の質が成果に直結するため、プロセスの標準化と情報共有が鍵となります。フェーズごとの進捗管理を行い、受注確度に応じたアクションプランを構築することが求められます。また、CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)を活用することで、属人的な営業スタイルから脱却し、組織全体での予実管理やナレッジ共有を実現することができます。
近年では、商談の多くがオンラインで行われるようになり、提案資料や話法の整備など、営業のデジタル化も進んでいます。
6. カスタマーサクセスの役割
The Modelにおいて、顧客との関係は「契約して終わり」ではなく「契約してからが始まり」です。カスタマーサクセスは、顧客が自社サービスを活用して成果を出すことを支援し、継続利用やアップセル・クロスセルに繋げる役割を担います。
特にSaaSやサブスクリプションモデルにおいては、継続的な価値提供がLTV(顧客生涯価値)の最大化に直結するため、カスタマーサクセスの重要性が年々高まっています。
導入支援から活用のフォロー、問題解決、ユーザーコミュニティの形成など、活動領域は多岐にわたります。契約更新率や解約率といったKPIも定められており、単なるサポートではなく、売上に貢献する“攻めのポジション”として再定義されています。

7. KPI設計
The Modelを機能させるうえで不可欠なのが、各部門におけるKPI(重要業績評価指標)の設計です。マーケティングからカスタマーサクセスまで、すべてのプロセスが定量的に評価・管理されることで、どのフェーズにボトルネックがあるのかを可視化できます。
KPIは単なる目標ではなく、部門の責任範囲を明確にし、行動変容を促すための指標です。たとえば、マーケティングではリード獲得数やコンバージョン率、インサイドセールスでは案件化率、フィールドセールスでは受注率、カスタマーサクセスでは更新率や解約率が設定されます。
重要なのは、KPIを全体最適の観点で設計し、各部門の目標が連動する構造をつくることです。これにより、数字を通じた“部門をまたいだ共通言語”が形成され、より高い成果創出につながります。
8. 部門間連携
The Modelが単なる分業に終わらず、実際に成果を生み出す仕組みとして機能するためには、部門間の連携が不可欠です。情報や数値を次の部門へスムーズに引き渡すだけでなく、目的や戦略を共有し、相互理解と信頼関係を構築することが求められます。
とくにKPIの連鎖性が強いThe Modelでは、ある部門の成果が次の部門の“母数”となるため、一方の停滞が全体に影響を及ぼします。こうした背景から、目標や基準のすり合わせ、パス条件の明確化、日常的なコミュニケーションが組織設計の前提条件となります。
部門間連携を仕組み化するために、CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)、MA(マーケティングオートメーション)といったシステムを活用し、情報共有をリアルタイムで行える体制を整えることが、結果として顧客満足度の向上にもつながります。
9. SaaS/サブスクリプションビジネスとの親和性
The Modelは特に、SaaSやサブスクリプションビジネスとの相性が高い営業プロセスです。これらのビジネスでは、契約後の継続率やアップセルによって売上が構成されるため、「初回契約」で終わらない顧客関係の構築が不可欠です。
そのため、カスタマーサクセスを中心に据えた体制づくりが求められます。また、短期的な売上だけでなく、LTV(顧客生涯価値)を重視する考え方は、The ModelのKPI設計や分業構造とも一致します。
プロダクト主導ではなく、顧客成果主導の戦略をとることが多いSaaS業界では、部門連携とプロセス最適化の重要性が高く、The Modelが果たす役割はますます大きくなっています。
10. 導入の課題と成功のポイント
The Modelの導入は、理論的には合理的でも、実行フェーズでは多くの課題が伴います。たとえば、役割や責任の曖昧さからくる部門間の摩擦、KPI設計が機能せず部分最適に陥るケース、属人化した業務の移行難易度などが挙げられます。
成功の鍵は、運用に入る前の設計段階にあります。まず、顧客の購買行動を起点にプロセスを逆算し、自社に合った形でモデルをカスタマイズすること。そして、目的や指標の定義を明確にし、必要であればフェーズごとに人材やツールの整備を進めることが重要です。
また、The Modelはあくまで「型」であり、それを運用する人と文化がなければ機能しません。定着を支えるのは、組織全体で顧客志向を徹底し続ける姿勢に他なりません。
まとめ
The Modelは、単なる営業体制の再編にとどまらず、組織全体で顧客の成功を支援し続けるための戦略的アプローチです。マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスという4つの機能が、互いに連携しながら価値提供を担うことで、営業プロセスの属人化を解消し、LTV最大化を実現します。
しかし、モデルを導入するだけで成果が出るわけではありません。部門間の連携設計やKPIの明確化、データ活用の仕組みなど、運用面での工夫と現場への浸透が成功の鍵を握ります。The Modelを自社に最適化し、継続的に改善しながら回していくことが、現代の営業組織に求められる真の実行力であると言えるでしょう。
今後の競争優位は、どれだけ“個人が頑張るか”ではなく、どれだけ“組織として成果を出す仕組みを築けるか”にかかっています。The Modelはその基盤となる考え方です。変化の時代を生き抜くために、自社の営業体制を見直す一助となれば幸いです。